~通いの場からの便り~
鶴見区シニアボランティア アグリ(大阪府大阪市)

共同菜園ボランティアで男性の閉じこもり防止 子ども食堂への野菜提供が生きがいに

大都市郊外に高度経済成長時代に開発されたベッドタウン――。このような地域では、団塊世代が多く暮らし、特に仕事を辞めた後の男性の閉じこもり防止が介護予防のうえで大きな課題になっています。社会福祉法人大阪市鶴見区社会福祉協議会がサポートする、60歳以上の男性限定のグループ「鶴見区シニアボランティア アグリ」は、男性の居場所づくりや「住み慣れた地域で社会参加していく」モチベーションのアップで一定の成果を上げています。関係者に運営のポイントを聞いてみました。

✔ポイント
・社会参加をしてコミュニケーションをとっていくような仕組みづくり
・ボランティアグループ化して自主運営にすることで工夫や改善が生まれる
・ルールでがんじがらめにしない雰囲気づくり
・地域や社会の役に立っていると実感できる機会の創出
・コロナ禍でも連絡を途絶えさせないサポート

閉じこもり防止、孤立防止、社会参加の三つを実現

大阪市の東部に位置し、工場、住宅、田畑が混在する大阪市鶴見区。最近は、大規模マンションも建ち、新旧住民が緑豊かな地域で暮らしています。高齢化率は27.0%ですが、高度経済成長時代にマイホームを建てた団塊世代にとっては、定年退職した男性の居場所が少ないことが課題です。そこで鶴見区社協が企画したのが、無償で提供してもらった休耕地を使い、男性たちが自主的に共同菜園運営を行って、子ども食堂などの支援に関わることで、閉じこもり防止、孤立防止、社会参加の三つを実現する仕組み作りでした。

鶴見区社協の生活支援コーディネーター安藤美希さん(47)は、アグリ誕生のプロセスをこう説明します。

「社協がまず『野菜づくりで生きがいづくり 男性シニア共同菜園ボランティア講座』を2017年9月から12月にかけて開きました。この講座を始める段階で、育てた野菜は地域の子ども食堂に寄付して有効活用してもらうこと、共同で畑を耕していくことを目的にしました。そこが一般的な家庭菜園講座と違うところです」

「講座期間後も冬野菜の大根や白菜、キャベツなどは畑で成長していくので、自然な形で住民主体のボランティアグループが翌年春に立ち上がりました。それ以後、社協はアドバイザー的立場です」

一方、アグリ代表の龍神正則さん(77)は参加のきっかけについてこう話します。

「ボランティアに興味があったし、三重県で家庭菜園もしていたので、地元でできるならばと思って参加しました。アグリのメンバーも、体を動かさなくてはいけないという意識があって参加した人が多いようです」

社協の講座は2クールで終了しましたが、アグリが活動し始めると、ボランティア活動の情報紙を見て参加するようになったり、メンバーが近所の人に声を掛けたりしてメンバーが少しずつ増え、現在17人が加入しています。

2017年10月撮影、講座開設当初の様子=鶴見区社協提供

「畑を中心に地域の人とのつながりができていくのも魅力」

アグリが継続する秘訣(ひけつ)について、龍神さんはこう考えています。

「子ども食堂を利用する子どもたちから『おいしかったよ』という言葉が寄せられるのが、最高にうれしいですね。人の役に立っているという実感があります。畑を中心に地域の人とのつながりができていくのも魅力です」

「もう一つは、ルールでがんじがらめにしないことです。定例活動日は、全員で畑作業をする毎週木曜日午前だけですが、毎日2~3人のグループで水やりをする活動もあります。休んだり、遅れたりすることで責任を感じてしまうような運営では長続きしないと思います。一つの家族のように、気軽に『今日は休む』と言葉を掛け合える環境づくりが大切です」

「メンバーは元気なシニアだけではありません。老いに伴い体が弱ってきている人もいます。そういう人も気持ち良く参加できるように、それぞれに合った畑仕事をやってもらうようにしています。黙々と農作業をする感じではなく、畑仕事をしながらおしゃべりもしてコミュニケーションを取っていくこともポイントです」

また、サポートする安藤さんは、コミュニケーションを取り合う人に偏りがでないように気を使っています。もう一つがボランティアグループ化だといいます。

「ボランティアグループ化することで、自治体や企業などのボランティア助成金が受けられるようになります。自分たちが運営しているんだという自立意識も芽生えてきます」

枝豆を収穫するメンバー。ミーティングも含め、活動の場は畑としている=2019年10月撮影、鶴見区社協提供

ボランティアグループ化することで自分たちで最適解を考え出す

男性の介護予防の観点から始まった活動ですが、ボランティアグループ化することで参加する人たちによる自由な発想に基づく活動に変わってきました。

水やり当番の体力的な負担を軽減するため、地元のリフォーム会社から不要になった浴槽を譲り受け、畑の貯水槽にしました。そうすると、メンバーの中に趣味の魚釣りで水中ポンプと発電機を持っている人がいて、ホースとつなぐことで、ジョーロで畑の中を何往復もする労力が改善されました。また、最初は鍬(くわ)で耕していたものの、今はメンバーが所有していた中古の耕運機を修理して使うようにして、高齢者の体力をカバーしています。

このように、最初から社協が機材をそろえてすべてお膳立てをするのではなく、メンバー自身が工夫し、最低限必要なものは助成金で購入するという運営です。

鶴見区内の5カ所の子ども食堂やみんなの食堂に野菜を提供しています。これについても、次第に年間を通じて安定的に野菜を提供するのには作付けをどうしたらいいのかと考えるようになったり、子どもが好きなメニューに使える野菜を作ろうとしたりといった工夫が、毎回畑で行われるミーティングで生まれてきています。

このほか、地元の公園から落ち葉採取許可をもらってたい肥づくりを始めたほか、学童保育の子どもたちを招待してのサツマイモ掘りの体験の場も提供し始めています。

自分たちで考えながら自立的な運営をし始めているため、失敗もあります。

例えば、鶴見区内にある乗馬施設から馬ふんを提供してもらい有機肥料として使い始めましたが、肥料過多で野菜づくりがうまくいかなかったことがありました。ホームセンターで売っている苗づくり専用の培養土でないと苗床ができないと思い込んでいて、近所の農家からアドバイスを受けたこともありました。加減が必要でした。

また、アグリのメンバーを男性に限定している理由についても龍神さんに聞きました。

「男性も女性も参加できる料理教室に参加したことがありますが、どうしても手慣れた女性がどんどん調理をしていってしまうんですよね。共同菜園も同じようになってしまうと、男性の居場所でなくなってしまう恐れがあるからです。また、女性は趣味の活動などやることが多いと思います」

白菜を収穫するアグリのメンバー=2017年12月撮影、鶴見区社協提供

コロナ禍で参加控える人にも手紙や野菜配布でつながり保つ

コロナ対策についても聞いてきましたが、広い畑での活動のため、「マスクをして作業をすること、ミーティングは5分程度にしている点以外はほとんど変わりません」(龍神さん)。

子ども食堂への野菜の提供は、元々、社協に収穫物を集め、各子ども食堂関係者に取りに来てもらう方式です。コロナ禍でも、安藤さんが間に入り、子ども食堂の写真や感想をプリントアウトしてアグリのメンバーに配ることでモチベーションの維持を図っています。コロナ禍で参加を控える人には、安藤さんが各家庭を回り、手紙を書いてポストに入れたり、収穫された野菜を配ったりして、コミュニケーションが絶えないようにサポートしています。

今後の課題について、安藤さんはこう考えています。

・定例活動日に都合が合わなくて参加を控えている人たちにはどうアプローチすればいいのか
・畑が遠くて通えないという人の参加をどうしていけばいいのか
・独りが好きな人にどうアプローチをしていけばいいのか
・区内の他の地域で休耕地を無償提供してくれる農家を探し、同様に活動を展開していけないか

鶴見区社協やアグリの取り組みは、大阪市内の3区から照会があったほか、全国社会福祉協議会の会合でも報告され、県外からも注目されています。安藤さんは、そのような社協の生活支援コーディネーターにこうアドバイスします。

「元気で長生きできる介護予防の仕組み作りは、一人で何かをすることより、社会参加しながらコミュニケーションをとっていくことが大切だと思います。一人では長続きしないし、地域での見守りにもならないからです」

アグリが提供した野菜を使った料理を食べる子どもたち=2019年12月撮影、鶴見区社協提供

<団体紹介>

鶴見区シニアボランティア アグリ

メンバー17人。現在も何らかの仕事をしている人は3~4人いる。平均年齢75歳で、最高齢は88歳。幅20メートル、奥行き60メートルの休耕地を無償で借り、共同菜園を運営している。定例活動日は毎週木曜日午前。このほか毎日、グループ単位で水やり当番の活動がある。アグリ公式Facebookページは►こちら。厚生労働省「第9回 健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野)厚生労働省老健局長 優良賞 団体部門受賞。

*おことわり
記事は2021年1月7日にオンライン取材したものです。新型コロナウイルス感染症の流行状況によって活動内容が変わることがあります。

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