郷土愛たっぷりの4団体の代表が語る
地域の課題解決を考えた「通いの場」の活動

「私のまちの『通いの場』自慢コンテスト」における「新しい通いの場アイディア&実践コンテスト」にて優秀賞に選ばれた通いの場の代表者に登壇いただき、取組内容の紹介や課題解決の工夫についてお話しをいただきました。

<登壇者:部門2の優秀賞受賞4団体の代表>
 山口美和さん(北海道札幌市豊平区「夏休みだよ!したっけ、みんなで集まるかい」)
 田中春生さん(秋田県秋田市東部地区未来を耕すプロジェクト「休耕地(田)を活用した畑作り」)
 伊藤 衛さん(埼玉県春日部市 ふれあいウォーキング)
 井手大補さん(佐賀県武雄市西川登町 かんころの家)

<ファシリテーター>
 町 亞聖さん

地域の人たちの声に耳を傾け続ける それぞれの「通いの場」

町  まずは皆さんに、それぞれの「通いの場」のご紹介をしていただきたいと思います。高齢化が進んだ団地で活動をされているという、山口美和さんお願いします。

山口 私は北海道札幌市より委託を受けまして、地域の高齢者に介護予防の活動をさせていただいております。介護予防センターの山口と申します。私どもの「夏休みだよ!したっけ、みんなで集まるかい」は、自治も管理組合もない170世帯が入る大きな団地が活動場所です。駐車場を利用して、高齢者向けにラジオ体操を行っています。今年で立ち上げから2年目を迎え、団地住民が主体的に運営できるようになりました。そのような中、団地のお母さんから子どもをラジオ体操に参加させたいとのお声をいただき、夏休みの期間は平日毎日体操することになりました。すると参加してくれた子どもたちに、最終日に何かプレゼントをあげたいという声が上りました。けれど、購入するお金がありません。そこでアイディアを出し合い、団地にお住まいの皆さんから文房具などを寄贈してもらおうということにしました。チラシを作りお願いして回ったところ、ダンボール4、5箱分も集まりました。さらに、野菜の販売やかき氷の屋台など縁日風の青空市も行いました。すると皆さんで野菜を分け合ったり、高齢者の荷物を参加者が自主的に部屋まで運んでくれたりといった交流も見られました。

北海道札幌市豊平区「夏休みだよ!したっけ、みんなで集まるかい」の山口美和さん
「夏休みだよ!したっけ、みんなで集まるかい」の活動報告

町  団地の高齢化は地方だけの問題ではありませんので参考にして欲しいですね。次は、休耕田を畑づくりの「通いの場」にしている田中春生さんです。

田中 未来を耕すプロジェクトのプロジェクトリーダーの田中と申します。私たちの住んでいる東部地区は、秋田市の東部地区に属した人口約6万2千人が暮らす、市内で3番目に多い地域です。以前は農業が盛んでしたが、少子高齢化により農家の後継ぎが少なくなり、休耕地が見られるようになりました。休耕地が進むと耕作放棄地となり、手が付けられない状態になってしまいます。そこで東部まちづくり部会(大学生から高齢者まで参加)では、地域の活性化を推進するための話し合いを定期的に行い、部会員だけでなく、市民サービスセンターの職員や地域包括支援センターの生活支援コーディネーターも加わり、皆で「夢のまち」について語り合いながら、そこから色々なアィディアを出し合いました。それを具現化し、直ぐにでも着手できることとして休耕地の有効活用実行委員会「未来を耕すプロジェクト」を立ち上げました。さらなる目的として、コミュニティーの場づくり、食育も加えて、市の交付金の申請も行い、活動をスタートさせました。7月からは一般の地域住民の公募も行い活動する人材を増やして多世代交流を図りながら活動しています。

秋田県秋田市東部地区未来を耕すプロジェクト「休耕地(田)を活用した畑作り」の田中春生さん
「未来を耕すプロジェクト」の活動報告

町  ありがとうございます。次は、「ふれあいウォーキング」で三方よしと言えそうな活動をしている伊藤衛さんです。

伊藤 埼玉県春日部市第7地域包括支援センターで生活支援コーディネーターをしている伊藤と申します。私の担当する地域は住民が約3万人、そのうち高齢者は約6千人です。「通いの場」として、毎日月曜日から金曜日まで地域のどこかにウォーキング好きが集まれる場所を作る活動をしています。参加者は「運動をしたい」「仲間づくりをしたい」というニーズを持った一般市民の方です。コーチは、地域貢献をしたい、専門職をPRしたいというニーズをお持ちの介護保険事業所の医療介護専門職の方です。そして開催場所は、地域に貢献したい、売り上げのアップを期待したいというニーズをお持ちのスーパーやコンビニ、飲食店さんの駐車場などの空きスペースです。この3者をマッチングさせるのが私の仕事です。約束事はありますが、きつい約束事はありません。「野外で実施しましょう」「料金は無料です」「事前申し込みはありませんので、どなたでも参加できます」「年齢性別は不問です」「自己責任で行いましょう」といった点です。また、参加すると春日部市が作っている介護保険手帳「そらまめ手帳」のスタンプラリーのページにスタンプを付与します。ためても何の特典もありませんが、皆さんこれを集めることを約束事としています。この「通いの場」では、ウォーキングの準備体操や歩き方のアドバイスを行うのみです。その後に参加者がそれぞれウォーキングに出かけてもらいます。参加者も非常に増加していまして、約6拠点で行っており、1週間で約90人参加がある状況です。さらに、町の美化活動も自主的に行うなど、参加者にも変化が生まれています。

埼玉県春日部市 「ふれあいウォーキング」の伊藤衛さん
「ふれあいウォーキング」の活動報告

町  このお話から、三方よしの意味がわかっていただけたかと思います。続きまして廃校を利用して活動している井手大補さんお願いします。

井手 佐賀県武雄市西川登町のかんころの家でコーディネーターをしています井手です。高齢者に朝9時から午後3時までかんころの家で過ごしていただいています。行政に相談して送迎サービスも利用できるようにしました。こちらは料金が1回100円で、運転手さんの費用となります。また野菜の直売所も運営しており、町内外から128名の方が登録されて、去年実績で98点ほどの商品が出品されました。この売り上げのうち1割をかんころの家の手数料としてもらい、高齢者支援事業に役立てています。移動スーパーも来るようになりました。今年の4月からは「高齢者困りごと相談」も立ち上げました。マイナンバーの取得サポートや、新型コロナウイルスワクチンの接種などに貢献しています。ちなみに、かんころの家の利用者の全員が4回目の接種を終えています。

佐賀県武雄市西川登町 「かんころの家」の井手大補さん
「かんころの家」の活動報告

対面の活動が難しくなったコロナ禍での工夫と対策

後半はコロナ禍でも活動を続ける皆さんの地元愛をひしひしと感じる時間となった

町  代表の方々、ありがとうございます。地域課題は裏を返せばそこにニーズがあるということです。地域の困り事を解決するためにどうしたら良いのかみんなで考えるプロセスも大切であり、そこから新たな繋がりやニーズが生まれてくると思います。ただ、やはりコロナ禍の中での活動は大変だったと思いますが皆さんいかがでしょうか。

山口 私たちの団体は、以前は集会所で介護予防の体操などをしていましたが、新型コロナウイルスが流行すると、室内で人が集まる活動は制限されました。そうすると、やはり参加者の物忘れの進行や、介護保険利用に関する相談なども多くなりました。そこで、コロナ禍でも介護予防活動を続けていく必要があると実感しまして、その選択肢として考えたのが野外での活動(ラジオ体操)です。野外で行うことで、人の目に触れる機会も増えて、参加者も増えるという効果もありました。もちろん通うのが不安で参加が難しい方もいましたので、そういう方には個人で取り組める体操の資料をお渡しして、活動状況をご自身で記録してもらいながらモチベーションの維持を図りました。

町  田中さん、畑の活動も野外になりますね。

田中 畑でも当然ながらマスク着用と体温測定は行っていました。

町  コロナ禍で自然の中で土をいじるのは心身にも良い気がします。

田中 野菜を作るということは、土を作るということです。野菜は土が育ててくれます。「野菜は人間の足音を聴いているんだよ」と子供達にも関心を持ってもらえるように話をして交代で毎日見に行きます。だだし畑に行くとしても、密にならないようには気をつけました。

「通いの場」の交流エピソードで登壇者たちも笑顔に

町  とてもいいお話ですね。伊藤さん、ウォーキングではどのような工夫をされましたか。

伊藤 どちらかというと、ふれあいウォーキング以外のサロン活動をほぼ休んでいた3年間でした。それに連動するように、私どもの包括支援センターにも認知症相談や介護相談がコロナ前よりも1.5倍以上寄せられる状況があり、なんとか集いの場を再開しなければならないというのが喫緊の課題でした。住民の皆さんにも「集まりたい」というニーズがあって、ふれあいウォーキングの参加者が減ったことはありませんでした。デメリットよりも参加人数が増えて、ふれあいウォーキングはコロナ禍にマッチした活動だと感じています。

町  なるほど。井手さん、かんころの家では、もう利用者全員の4回目がワクチン接種も済んでいるということでしたが。

井手 一番困ったことは、かんころの家を始めて利用者さんが慣れてきた時に、新型コロナウイルスが流行りだしたことです。行政や病院などとも相談しましたが、結局1カ月間は休みました。すると2週間ぐらいで、「いつ始めてくれるのか」と問い合わせが多くなりました。我々は協議会を開きまして、実施できない問題点を拾い出し、クリアすることを前提に考えました。すると備品などにだいぶお金がかかるということで、いろいろなところにお願いをして、大型扇風機などを準備しました。そして皆さんに迷惑がかからないように、ワクチン接種も「利用者全員で行いましょう」と言ったのがきっかけで、現在4回目の接種が済んでいる状況です。

町  できることを前提に、どうしたらいいかを考える。これは本当に大切ですよね。山口さん、参加者の意識の変化や新たなニーズが出たりしたのでしょうか。

笑顔で登壇者の話に耳を傾ける町さん

山口 北海道の冬は雪が降るので、野外でのラジオ体操は開催できません。けれども、住民の方から楽しい交流を続けたいという声もありました。また、たまたま参加者にノルディックウォーキングの講師の資格を持っている方がいまして、今、新たなサークル活動が立ち上がっているところです。

町  通いの場が新たな役割を見い出すきっかけになっているのですね。田中さん、畑では子どもさんの変化というのは何かありましたか。

田中 子どもたちは私の野菜の話を聞き、とても興味を持ってくれます。

町  伊藤さん、ウォーキングはいかがでしょうか。

伊藤 今はふれあいウォーキングでも自主性が芽生えているので、さらにその先ですね。ウォーキングに目的を作りたくて、考えているのは春日部市の野菜直売所マップや、飲食店や商工会とタイアップした企画など、町も活性化できるようなことが今後の展開になるかと思っています。

町  井手さんはいかがでしょうか。

井手 かんころの家は運営が始まって3年になります。参加者の平均年齢は83.5歳、その間に8名の方がお亡くなりになりました。皆さん大病を患っていらっしゃいましたが、(最後の)入院期間は1カ月ぐらいなんです。普通だったらもっと長いはずです。そう考えると、皆さんがかんころの家に(行きたくて)体調を整えながら通っていたのではないかと思います。中には昨日までかんころの家に来ていたのに、今朝亡くなったという方もいらっしゃいます。かんころの家に来て、歌って、話して、軽い運動をしていたのが、認知症にも体調にも良い影響を与えていたのではないかと、手応えを感じています。

町  皆さんのお話をまだまだ聞いていたいですが、そろそろお時間もきました。みなさん、最後に一言ずつメッセージをお願いします。

山口 札幌市という比較的大きい都市においても、住民主体の「通いの場」がつくり上げられています。今後も地域住民が自ら主役となれるつながりを大切に、支援を続けていきたいと思います。

田中 これからますます少子高齢化が進んで行くと思いますので、大いに自分事としてこの地域を発展させていきたいと思います。

伊藤 「できない」ではなく、「やってみよう、やりたいんです」と言ってみると、意外に「一緒にやりましょう」という人がたくさん出てくると思います。誰がではなく、皆さんに勇気を持ってもらえれば、「通いの場」の活動が広がっていくと思います。

井手 やはり目標は大きく、「支え合える郷土、福祉のある郷土」ということで、西川登町を「日本一の福祉の町」と言われるようにがんばっていきたいと思います。

町  郷土愛たっぷりの4団体にお話を伺いました。ありがとうございました。

「通いの場運営者サミット」の模様はこちらからご覧いただけます。

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