~通いの場からの便り~
敷石会(長崎県佐世保市)

半世紀におよぶ活動を継続 他地域からも参加する地域活性の支え合い

長崎県佐世保市で活動する「敷石会(しきいしかい)」では、市営住宅の集会所で毎週水曜日に「水曜会(ふれあい教室)」を開き、佐世保市推奨の「いきいき百歳体操」を行っています。
敷石会の参加者は男女合わせて47名。会員の誘いを受けて“お試し参加”をする人たちもいて、水曜会(ふれあい教室)では毎回20人前後が顔を合わせます。
同会の出発点は1970年創立の老人クラブです。50年以上にわたり存続するのは、老人クラブ会長やグループ長(ブロックごとのリーダー)、民生委員、佐世保市早岐地域包括支援センター、佐世保市役所保健福祉部長寿社会課などの連携と、多彩な活動内容によるものです。グラウンドゴルフ、地区内の清掃、福祉施設への慰問、講師を招いての踊り練習などに加え、一堂が会することでおしゃべりも楽しめます。一人暮らしの人にとって、同世代の住人とのふれあいは、なにより精神的な癒やしになります。さらに、敷石会では水曜日の集会以外にも、日頃から声かけによる安否確認も行い、共に年齢を重ねてきた地域の人たちの晩年を支え合っています。

✔ポイント
・市営団地と一般住宅の老人クラブを出発点とする活動
・週1回の定期的な集会によるコミュニケーション
・早岐地域包括支援センターとの連携による活動
・声かけによる日常・災害時の安否確認
・幅広い活動で社会参加

開放的な土地柄と参加者のニーズに合わせた活動で50年以上の活動実績

長崎空港から約1時間半。長崎県北部にある佐世保市は、海上自衛隊、陸上自衛隊、米国海軍の基地があり、日本最大級のテーマパークを有する観光都市でもあります。人口は約24万人。介護予防と見守り活動を行っている「敷石会」は、その佐世保市の早岐(はいき)地区にあります。活動拠点は、JR早岐駅から徒歩十数分、5階建ての市営住宅が立ち並ぶ団地内の集会所です。

市営住宅の団地内にある「敷石会」が活動拠点にする集会所

敷石会は1970年に結成された老人クラブで、52年にわたる活動実績があります。「昔は長屋だったから、外に出ると気軽におしゃべりもできたし、誰がどこで働いているかも知っていた」と、当時を知る敷石会元会長の吉本勝一さん(92)は振り返ります。

家から一歩外に出ると、となり近所が顔を合わせて声を掛け合える環境が一変したのは84年から。木造平屋の住宅が老朽化に伴い鉄筋コンクリートの5階建て住宅へと順次建て替えられ、お互いに顔を合わせる機会が減ってしまいました。それまで誕生会や慰安旅行、カラオケなどのレクリエーションが主な目的だった月3回程度の活動は、これを機に“貴重なコミュニケーションの場”へと変わり、やがて連絡網を活用した電話や訪問による安否確認、台風など災害時の声かけなども行われるようになりました。

そして2006年に参加者の要望で「介護予防の取組」という新たな目的が加わり、毎週1回、「水曜会(ふれあい教室)」が開かれるようになりました。水曜会(ふれあい教室)では、講師を招いて盆踊りを習い、和太鼓を携えての福祉施設への慰問、グラウンドゴルフ、地区内の清掃などが行われるようになりました。さらに13年になると、地域の介護保険事業所による介護予防・認知症機能低下予防の取組が始まります。17年以降は地域包括支援センターと連携し、「いきいき百歳体操」を開始し、介護予防活動がより活性化していきました。

現在、敷石会の参加者は戦前生まれの人たちも多く参加しています。現会長の久保博司さん(73歳)によると地区外の方の参加も歓迎しているとのことで、そうした懐の深さが同会の活性化につながっているようです。

「敷石会」会長の久保さん

同会の副会長で女性部長を務める松本しげ子さんは68歳のときに岐阜県から早岐団地に移り住み、引っ越し2か月で入会しました。

「この地区には、外から入ってきた人たちに対してよそ者扱いしない風潮があり、私は敷石会に入って友だちができました」(松本さん)

こうした開放的な土地柄と参加者のニーズに合わせた活動内容の見直しが、50年以上におよぶ敷石会の存続へとつながったのかもしれません。

コロナ禍第7波で自主的に活動を再開

取材に訪れた日は、地元医療機関による介護教室が開かれていました。集会所に集まった参加者は30名ほど。

地元医療機関による介護教室の様子。水曜会(ふれあい教室)では様々な活動が行われている。

参加者に声をかけてみると、77歳の一人暮らしの女性は「私は2年前から通っています。ここへ来ると体操して、誰かとおしゃべりできて、いろんな勉強にもなりますから」といいます。また、今回が初参加だと話す70歳の女性は「私は会員ではないけど、会員の友だちに誘われて参加しました」と同会の存在が、その枠を超えて交流のきっかけとなっていることがわかります。

日頃からオシャレを楽しんでいる様子が見て取れる83歳の女性は、水曜会(ふれあい教室)に加えて、体操教室、エアロビクス、ゴルフ、俳句、登校時の子どもの見守りなど、実に活発に過ごし、自転車にも乗るとのこと。「外に出て、誰かに会うのが元気の秘訣です」と、交流の大切さを語ってくださいました。

さらに、この日は95歳の女性も参加していました。「うちは商店をやっていて、ずっと働いてきたから」と謙遜するものの、「60歳の時に誘われて老人会に入ったのがきっかけですが、その頃は十数人しか会員がいなかったんですよ」とふり返る口調は、年齢を感じさせないほど明瞭です。

講話が始まると、さっきまでワイワイと賑やかだったのが信じられないほど、参加者は食い入るように説明用のスライドを見つめ、講師の話に耳を傾けていました。続いて行われた『いきいき百歳体操』も同様で、真剣な表情で運動している姿が印象的でした。

水曜会(ふれあい教室)では佐世保市推奨の『いきいき百歳体操』に取り組んでいる

この体操を続けているうちに、押し車につかまりながら歩いていた参加者が、下肢の筋力が回復して、自力で歩けるようになったケースがあるそうです。敷石会での体操教室は、早岐地域包括支援センターとの連携で行われていますが、同センターでは熱中症や生活習慣病予防、介護予防などの講話も行っています。

まさに「いきいき」とした姿が印象的な敷石会のみなさんですが、新型コロナウイルス感染症の影響で、その活動は一時、自粛を余儀なくされていました。しかし、「1人じゃ運動はやらん。みんな集まってやるのがいいんだ」という声があがったそうです。感染予防対策として集会所の窓を開け換気に努め、アルコール消毒やマスク着用を徹底して体操教室を再開。さらに、屋外のグラウンドゴルフも楽しむようになったといいます。長年、自主的に活動してきた自負と自信が生んだ前向きなパワーなのでしょう。

あらたな参加者を生み出す敷石会の原動力

敷石会のように活動するグループ(通いの場)とのパイプ役を担う早岐地域包括支援センターの難波さんは、集会に出向いて介護予防の指導を行う一方で、担当地域の高齢者宅を訪ねて、通いの場への参加を促してきました。

集会所では地域の垣根を超え交流を深めている

活動の場の重要性を伝え、参加する人を増やしていくことも地域包括支援センターの役割のひとつだといいます。こうした支援も受け、敷石会には様々な人々が集い交流を深めています。敷石会の充実した取組によって、参加者の方々はみなさん「楽しい」と語ります。そうした声があらたな参加者を生み、そんな話を聞きつけて、地区外からも参加を希望する人が出てくるまでになったのです。

この「楽しい」は、2018年から会長を務める久保さんの心も動かしました。

「前任の吉本会長から後を継いでほしいとお願いされたときは迷いました。そこで試しに日帰りの温泉旅行に同行させてもらったのですが、休憩中に女性部の方々が踊り出したんです。わぁ、元気いいな、本当にお年寄り? と思ったほど楽しそうで、私自身も頑張って少しでも皆さんの役に立とうと決心しました」(久保さん)

楽しければ笑顔もこぼれ、笑えば健康に欠かせない免疫力も上がります。敷石会参加者の健康を支えている原動力は「楽しい」と感じる皆の気持ちであることは間違いないようです。

<団体紹介>

佐世保市内早岐地区で1970年に誕生した老人クラブ。60歳以上の男性11名、女性36名が会員として登録。毎週開催される「水曜会(ふれあい教室)」で定期的に集まり、介護予防を目的とする体操を行うほか、グラウンドゴルフ、福祉施設の慰問、清掃ボランティアなど活発に活動。また、地区内高齢者への声かけ・見守りも活動の1つで、認知症予防にも力を入れている。2021年に「第10回健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野)で厚生労働省老健局長 優良賞 団体部門を受賞。

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