~通いの場からの便り~
大池ぬくもりの会(愛知県東海市)

健康体操から病院の送迎、網戸の張り替えまで、近所の集いが地域の活性化に貢献

名古屋市から電車で約30分。知多半島の付け根に位置する東海市は、中部圏最大の鉄鋼基地があり「鉄鋼のまち」として知られています。わが国の重工業最盛期に全国各地から集まってきた若者たちは、やがて社宅住まいから1戸建ての終の住処を持ち、シニア世代を迎えました。
「大池ぬくもりの会」も、そうやって地元に根を下ろしたシニアの集まりで、会の前身である「友好会つどい」が2006年4月に発足した当初は、女性の居場所づくりが目的でした。当時、集まった女性は約40名。そんな「大池ぬくもりの会」のこれまでと現在どのような取り組みが行われているのか話をききました。

✔ポイント
・「大池健康交流の家」の運営…東海市と大池自治会の合築による木造平屋建ての施設で、カフェや体操教室、施設敷地内の花壇づくり等を行う。
・地域支え合い活動…通院や買い物の送迎・付き添い、蛍光灯や網戸の交換、自転車のパンク修理、包丁研ぎ、ゴミ出し、不要品の運び出し、新型コロナワクチン接種の予約代行、接種会場への送迎等を行う。
・イベント(子どもたちを交えた流しそうめんや七夕)等の企画運営。

女性の“井戸端”の延長で始まった小さな困りごとの手助け

「大池ぬくもりの会」の代表 香田さん(左)

「大池ぬくもりの会」も地元に根を下ろしたシニアの集まりです。会の前身である「友好会つどい」が2006年4月に発足。当初は、女性の居場所づくりが目的でした。当時、集まった女性は約40名。発足当初は、手芸や料理、バス旅行などを参加者とみんなで楽しんでいました」と会長の香田和子さん。いってみれば、近所の奥さんたちが集まる“井戸端”のような形でした。

転機は、会が発足して数年後の出来事でした。
「会員の1人が急に熱を出してしまい、病院に連れて行ってもらえないかと頼まれたことがありました。それがきっかけとなり、会員同士で小さな困りごとの手助けを少しずつですが、するようになっていきました。」(香田さん)。

そして、2012年6月に、「大池ぬくもりの会」が発足。現在では、会員は男性14名、女性15名。年齢層は70〜80代が大半を占めています。主な活動内容は次のとおりです。

「東海市地域支えあい活動」の第1号に

人口約11万4000人の東海市には、市内を12ブロックに分けたコミュニティがあります。さらに、これらの地域内に町内会と自治会があり、2者を合わせると110の組織が存在します。このうち、市の市民福祉部高齢者支援課が取り組む「東海市地域支えあい活動」には、大池ぬくもりの会を筆頭に、26の町内会・自治会から26団体が参加しています。

その取り組みは以下のとおり、大池ぬくもりの会の活動と重なります。

東海市の市民福祉部高齢者支援課が取り組む「東海市地域支えあい活動」には、大池ぬくもりの会を筆頭に、26の町内会・自治会から26もの団体が存在する

▼「東海市地域支えあい活動」のポイント
・隣保活動等による地域の見守り
・ボランティア等による日常生活の援助
・サロンの実施等による外出の機会及び住民同士の交流の場の創出
・その他(防災訓練、AED講習会、映画上映会等)

こうした活動のきっかけとなったのが、前出の「友好会つどい」が始めた通院をする際の送迎でした。「送り迎えは、会員や会員のご主人が行いましたが、無料だと気を遣うと思い、1回200円をいただくようにしました。でも、お金の受け渡しが発生すると問題になる可能性があったので、社会福祉協議会を通じて市役所に相談することにしたんです」(香田さん)。

これを機に市と同会がつながり、市内各所で活動していた地元の小さな団体と行政の連携が一挙に拡大していく流れができました。

『「大池ぬくもりの会」の紹介ポスター』

▼「東海市地域支えあい活動」団体登録の条件
・市内のコミュニティ、町内会、自治会などの地域で、“5人以上の仲間”が集まること。
・地域における支えあい団体を結成し、高齢者の見守り、交流・健康づくり、生きがい創出、地域支援等の地域福祉活動を行うこと。

▼登録団体への支援内容
・東海市地域支えあい活動支援交付金の支給
・団体立ち上げ支援や地区別情報交換会の開催

行政と町内会・自治会と活動団体が三位一体で

東海市は名古屋地区のベッドタウンとはいえ、高齢化が進み、人口減少と高齢化率上昇(令和4年4月1日現在、22.7%)が、ゆるやかながらも続いています。加えて、時代の流れには逆らえず、隣近所の付き合いも疎遠になるばかり。ひとり暮らしや老夫婦だけの家庭は、孤立しがちな状況下で生活しているのが現状です。

東海市役所の高齢者支援課の佐々木さん。地域支えあい活動に参加する団体の集まりには積極的に足を運んで情報収集に努め自身も学ぶことが多く、この仕事にやりがいを感じていると話す

そのような中、「行政が地域の課題をタイムリーに把握するのは難しい」と話す市民福祉部高齢者支援課の佐々木朝菜さんは、地域支えあい活動に参加する団体の集まりには積極的に足を運んで情報収集に努め、高齢者支援を進めています。祖父母ほど年が離れたシニア世代と関わることで、佐々木さん自身も学ぶことが多く、仕事にやりがいを感じているといいます。

「たとえば、大池ぬくもりの会でいうと、活動拠点の『大池健康交流の家』の館長は、大池自治会の品川学さんが務めています。品川さんが自治会から出向という形で加わることで、活動団体と自治会と市が連携をはかれます」

「大池健康交流の家」の館長 大池自治会の品川学さん

その大池健康交流の家は、東海市が建築費の4分の3、大池自治会が4分の1を負担して建設された。施設は色とりどりの花に囲まれた木造平屋建てで、中央に配置された玄関の右手に、体操教室やコンサートを行えるホールがあり、左手にカフェ風のサロンがあります。

大池自治会、根崎和夫さんと知多市に住むボランティア、加藤誠さんによるミニコンサートが開かれた日に大池健康交流の家を訪れた。スタートは午前10時。施設の近くを歩いていたシニア女性のグループに道を尋ねると、「わたしたちも今、向かっているところよ〜!」と、明るく元気な声。コンサートが始まると、皆さん、リズムに合わせて身体を動かし、加藤さんの歌声に合わせて口ずさむ女性たちもいたほどでした。

根崎和夫さんと加藤誠さんによるミニコンサート。曲の合間に加藤さんのMCが入り会場には終始なごやかな空気が流れていた

参加者に感想を求めると、「昔流行った歌謡曲とかを聴くと元気が出るわよ」「やっぱり歌はいいわねえ」などと異口同音の返事が返ってきました。音楽を聴くことで、10代、20代のころの思い出もよみがえるのでしょうか。参加者の目も、キラキラと輝いていました。

体操とおしゃべりで盛り上がる

ミニコンサートの開催日は、午後からゴムバンド体操も開かれました。
ホールの前方で指導するのは男性会員。ゴム製のフィットネスバンドによる「チューブトレーニング」で、介護施設や病院等のリハビリテーションにも採用され、身体機能の低下予防や心の健康維持にも効果があるという研究報告があります。

午後の部のチューブトレーニングでも多くの参加者で賑わっていた

腕を伸ばしたり、前屈したりと身体を動かしながら、声を出しています。
「いち、にぃ、さん、し」「にぃ、さん、し、ご」「さん、し、ご、ろく」……。1〜10までのうち4つ数えると、最初と最後の数字が1つずつずれていき、数字を言い間違えないように、頭もフル回転させなければいけません。
参加者の中には、パーキンソン病を患い、訪問介護員(ホームヘルパー)に付き添われて、東海市に隣接する知多市から通っている60歳の女性もいます。
「会の評判を聞いて、毎週1回、特別に通わせていただいています。ここへ来るとリハビリもできるし、いろんな方とお話ができて楽しいです」とのことでした。

体操終了後、参加者はサロンに集まり、1杯100円のコーヒーやジュースなどを注文して、ワイワイと賑やかな「お茶の時間」が始まりました。そのうちの1人は、背骨を骨折して、退院したばかりだとか。「体操教室はリハビリにもなるし、通院の時は車での送迎もお願いしています。本当に助かっていますよ。感謝、感謝です」
ゴムバンド体操の他にも、大池健康交流の家では百歳体操が開かれていて、多くの高齢者が健康づくりに励んでいるそうです。

台所でコーヒーを入れたり、茶菓子を用意したりと動き回っていた85歳のボランティアの女性もいました。イベント開催時には欠かさず手伝っているのだとか。姿勢もよく、実年齢よりも若そうに見えます。前出の香田さんも77歳とは思えないほど若々しく、「私は仕事があるので体操教室にも参加しませんし、運動らしいことはやっていませんが、おかげさまで元気です。ここへ来て働いているのが一番の健康法かもしれません」と、元気の秘訣を教えてくれました。

会場の参加者の方々はみな明るくいきいきしていた

要するに、動くこと、頭を使うこと、そして、笑うこと。参加者の方々を見ていると、介護予防にはこの3つがきわめて重要だと、実感させられます。
「さあ、帰ろうか。もうしゃべり疲れたわぁ」
午後3時を回った頃、賑やかだったカフェからこんな声が聞こえてきました。
ゆるりとイスから立ち上がる人、スッと立ち上がる人。状態はさまざまですが、玄関で外靴に履き替えてもなお、賑やかな声を響かせています。女子高生が年を重ねただけ。そんな風に映りました。

昔取った杵柄で地域貢献する男性陣

大池ぬくもりの会の29名の会員の中には、男性も参加しています。やはり皆さん70代以上です。

「網戸の張り替えや電球の交換、包丁研ぎなどの力仕事は、男性陣の出番です。皆さん、もの作りに長けているので、流しそうめんのイベントを行う時は、張り切って竹を取りに行って、そうめん台を作ってくれますね」(香田さん)。

包丁研ぎ活動では、1度に100丁もの包丁を10名で研ぐといいます。通院や買い物の送迎で、自家用車を持ち出して運転するのは、その時間に対応できる人で行っているそうです。

大池ぬくもりの会の運営メンバーの一人 細越澤武さん

「送迎の時に、ありがとうと言われるとうれしいですね」と男性陣の1人。
一般的に、地域社会とのつながりが希薄で、定年後は自宅に引きこもりがちな男性もいる中、ここでは会を通じて社会参加が可能です。

後継者不足の解決が今後の課題

「ここに集まる男性では、66歳の私が年少です」
こう話す品川館長は、定年延長制度を利用して65歳まで会社努めをするサラリーマンでした。「でも」と、品川館長は続けます。

「昨今の定年延長で、60代半ばまで働く男性が増えましたし、70代でも仕事をしている人もいます。私たちのような活動団体も、自治会や町内会も、活動を牽引していくリーダーシップの育成が課題です」

東海市役所の高齢者支援課の佐々木さんも同様に、後継者不足に頭を抱えている。国全体では、65歳以上の人口が28.9%(令和3年10月1日現在)を占める中、東海市の高齢化率はそれより6%ほど低い。にもかかわらず、後継者がなかなか見つからないそうです。

「今後は地域支えあい活動を行っている団体の位置づけを明確にしなければいけないと思っています」と佐々木さん。このたびの「第10回 健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野) 厚生労働省老健局長 優良賞 団体部門の受賞は地域支えあい活動の弾みになるとのことで、実は、アワードに応募を提案したのも佐々木さんでした。

「私たちは大きなことをやっているわけではなく、小さな困りごとを助け合って解決していこうという気持ちで始めた活動なので、思ってもみなかった賞をいただいて感謝しかありません」と香田さんは語ります。

前身から数えると、16年にもおよぶ活動が長続きする秘訣を尋ねると、
「みんなが楽しんで、喜んでやればいいのだから、という気持ちで続けてきましたが、やめる人はいませんでした」
誰もが望む「楽しい」をキーワードに、大池ぬくもりの会では、今日も笑い声が響きわたっていることでしょう。

<団体紹介>

大池ぬくもりの会

平成18年、地域の女性たちのサークル活動「友好会つどい」が発足。平成24年6月に「大地ぬくもりの会」を発足し、同年11月に「東海市地域支えあい活動」の第1号団体の指定を受ける。見守り活動、通院・買い物の送迎と付き添いなどの日常生活の小さな困りごとの解決から、交流イベントの企画運営まで行っている。現在男性会員14名、女性会員15名。「第10回 健康寿命をのばそう!アワード」(介護予防・高齢者生活支援分野)で厚生労働省老健局長 優良賞 団体部門を受賞。

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